Sunday, September 10, 2006

バイオテクノロジーの進歩・今後の期待と課題

1990年に米国で正式にスタートしたヒトゲノム解析は計画目標の2005年より大幅に早く2000年に概要解読が終了したとのこと。これらの成果は、今後の病気の治療を含めて計り知れないほど、人間とは何かというような倫理的な課題も含めて、従来のものの考え方を変えなければならない問題に直面しているという。

大きな重要な事項の一つに生物はみな同じスーパーファミリー(人間だけがあらゆる生物の中で特別なものではなく、同じファミリーのワン・オブ・ゼムに過ぎない)に属している(生物のあらゆる細胞には、エネルギー産出システムを受け持つミトコンドリアという細胞内小器官があり、そこでヌクレオチドを構成する部品である塩基-A(アデニン),T(チミン),G(グアニン),C(シトシン)ではない別の暗号システムを使っているとか、生殖とか、形態形成、生物のさまざまな基本的な枠組みの根幹部分がみな相同遺伝子によって作られ、同じようになっている)。

現在では、DNAシーケンスを自動的に読み取る装置、遺伝暗号をいれるとその通りDNAを作るDNA自動合成機等大抵の研究室にあるらしい。そこで目指すは病気治療のためのティシュ・エンジニアリング(tissue engineering:再生医療)の活躍の場である。脊髄損傷で動けない人の脊髄復元、脳梗塞、アルツハイマー病など脳の病気で機能を失った人の脳細胞再生、人間の臓器を豚などに移植用臓器として作らせる場合など、人動物キメラは何処まで許されるか等生命倫理の課題が分子生物学の進歩とともに続出してきているという。

一方、HIVウィルスは分裂しない非細胞(脳、肝臓、肺等)の中にも入っていくが、このエイズウィルスを無毒化できると最高のベクター(遺伝子クローニングなどで遺伝子を導入する時遺伝子をのせて送り込むことができるDNAに入りやすい物質)になるという。これもDNA解析が進み何処が悪さをするかすっかり解析済みとのこと。

ガンにあっては、以前よりp53ガン抑制遺伝子について新聞等で時々報道されていた。大抵のガンは15~20くらいの遺伝子異常が同時に起きているためその全部を直すのはとても無理なのでたった一つのp53遺伝子を入れただけでガンは自己破壊(アポトーシス)を起こすという。p53はガン細胞が異常増殖を始めようとすると細胞分裂にストップを掛け、増殖を止まるようにし、それでも異常増殖が止まらないとアポトーシス(細胞自殺)のスイッチを入れてガン細胞の固まりを自殺させてしまうという。因みに人の手(指ができるのは)はアポトーシスの結果指の形成となっている。

(「21世紀 知の挑戦 立花隆 著」より)

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